2015年12月11日 (金)
私が再三求めていた大胆な金融緩和政策は、黒田日銀総裁のいわゆるバズーカ緩和とそれに続くサプライズ緩和と言う形で実現されました。また、国内の総供給に対して総需要が足りない時(需給ギャップがある時)に財政出動を行なった事も、基本的には正しい経済政策であったと考えています。その結果、雇用情勢や企業収益などに、明るさが見えてきていたのは確かです。
ところが、消費税率が5%から8%へと引き上げられた事で、歯車が狂ってしまいました。私は消費増税自体が悪だとは考えていません。しかし、「賃金の上昇が始まる前の増税は、病み上がりの患者に冷水を浴びせかける様なものだ」として反対していました。結果は危惧していた通りです。これを「予想を超えた悪影響」などと、あたかも降ってわいた天災の様に呼ぶのはおかしなことです。
ただ、この消費増税の悪影響がなかったとしても、果たして日本経済が活力を取り戻せていたかというと疑問です。財政政策や金融政策は、景気を刺激し下支えしてくれます。しかし、経済の潜在成長力、つまり長期的に成長する力をつけてくれる訳ではありません。
そこですぐに思い浮かぶのはアベノミクスの三本目の矢、しかも「本丸」として挙げられていた「成長戦略」です。ただ、金融・財政政策と言う一本目と二本目の矢と比べると、その内容が判然としません。
「規制緩和等によって、民間企業や個人が真の実力を発揮できる社会へ」と言う方向性は分かっても、具体的な話となると一向に見えてきません。国家戦略特区を定めて、医療、雇用、農業などの分野で、既得権益に守られた「岩盤規制」を地域限定で緩和しようとしていますが、日本全体の成長につながるまでにはまだまだ時間がかかります。
そんな中、あまり注目されていませんが、反成長戦略とでも言うべき状況が、日本全体に温存されている事は深刻な問題だと考えています。
中小企業金融円滑化法は、2013年3月31日に期限切れとなりました。そろそろ3年が経とうとしていますので、皆さんのご記憶からは消え始めていると思います。この法律の延長が提案されるたびに私は反対をしてきましたので、「ようやく廃止された」と言う思いです。
ところが、期限切れとなった後も、金融庁の指導により「貸し付け条件の変更」つまり返済猶予が続けられてしまっています。
この法律が導入されたのは、リーマン・ショック直後の2009年12月です。たしかに、当時の急激な経済情勢悪化に対する緩和策としては有効な薬でした。しかし、その一方で「経済の新陳代謝を停止させる」という副作用を持っていたことも間違いありません。
たとえ稼ぐ力がなくなった企業であっても、従業員の雇用を守っている限り社会に貢献しているという考え方もあります。また、既存の企業が技術革新を行い、経営改革を通じて生産性を向上させていけば良いではないかと言う考え方もあります。
しかし、経済全体の成長や生産性の向上をはかる為には、新たな活力を持った優れた企業が参入し、非効率な企業が退出するという新陳代謝が不可欠です。稼げなくなった企業からヒト、モノ、カネが放出されなければ、新たに参入したい企業に、この経営に不可欠な三要素が回ってくることはありません。
どの先進国においても、新たに開業する企業(開業率)と廃業する企業(廃業率)とはほぼ均衡しています。たとえばアメリカは9.3%/10.3%、ドイツは8.5%/8.1%、フランスは15.3%/11.1%、イギリスは14.1%/9.7%です。日本はと言えば、均衡してはいるのですが4.8%/4.0%と著しく低い水準にあります。
開業率が低いことから、「日本人にはベンチャー精神が欠けている」などと言われます。しかし、実は「退出して経営資源を放出してくれる企業が少ない」事にも、大きな問題があると思われます。資源配分が適正に行われなければ、経済が真に活性化することはありません。
雇用の流動化には痛みが伴います。しかし、現在返済猶予を受けている30万社とも40万社とも言われる企業の内、健全性を取り戻す企業は1割もないとされています。返済猶予や「追い貸し」で延命している再建の見込みが薄い企業にいたのでは、賃上げはおろか前向きに働く喜びすら怪しいものとなってしまいます。
短期的には救われている様に見えても、長期的に不幸な状態に陥る事は避けねばなりません。もちろん、再雇用を円滑にする為の再教育制度の拡充、職場が変わっても引き継げる社会保障制度体系の構築、医療や年金制度の雇用形態による差別の撤廃など課題はあります。
しかし、痛みを避ける為に金融機関に延命治療をさせ続けるのは、ジリ貧を恐れてドカ貧に陥る道です。これからの国会での審議の中で、この様な「反成長戦略」が目に見えないところで続けられている事を指摘し、改善を求めていきたいと考えています。