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2011年04月22日 (金)

原子力事故の損害賠償

東京電力福島第一原子力発電所の事故の賠償責任に関して様々な意見が述べられており、賠償のスキームについても政府内で議論が進んでいるようです。最終的にどの様な形になるかわかりませんが、現時点では法律上どのようにこの損害賠償が規定されているかについて、正しく理解しておくことが必要です。 

原子力損害における損害賠償については「原子力損害の賠償に関する法律」というものがあり、その第3条では「原子炉の運転等により生じた原子力損害は、原子力事業者が賠償責任を負う」として、原子力事業者に対して「無過失責任」「責任集中」という極めて珍しい形で賠償責任を負わせることとしています。つまり、原子炉を製造したメーカーの瑕疵によって大事故が起こったとしても、損害賠償責任は事業者のみに存在し、製造者責任は問えないということです。 

事業者による損害賠償を確実なものにする為に、一般的な事故の場合は民間保険契約である「原子力損害賠償責任保険」で、また民間保険契約でカバーされない地震、噴火、津波といった災害の場合には政府と原子力事業者が締結する「原子力損害賠償補償契約」において、一事業所当たり1200億円までの賠償措置額が定められています。賠償額がそれを超える場合には、政府は原子力事業者に対して損害を賠償するために必要な援助を行うこととしており、この「必要な援助」は国会での議決により決定されることとなっています。 

また損害賠償を円滑に進めるため、紛争当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を策定し、和解を仲介するための「原子力損害賠償紛争審査会」についても規定されており、今回の事故を受けて、既に4/11に文部科学省が審査会を設置し、損害の範囲等の指針策定に着手し始めています。 

第3条の規定に話を戻しますと、「原子炉の運転等により生じた原子力損害は、原子力事業者が賠償責任を負う」との規定の後には「ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的な動乱によって生じたものであるときには、この限りではない」という但し書きがあります。さらに同17条には「政府は第3条第1項但し書きの場合、被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする」と規定されています。つまり、「異常に巨大な天災地変又は社会的な動乱によって生じた」損害の場合には事業者は免責となり、また、政府も「被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずる」ことはあっても、損害に対する賠償は行うとは定められておりません。 

従って、今回の事故が「異常に巨大な天災地変又は社会的な動乱によって生じたものである」か否かの判定はきわめて重要であり、この解釈をめぐって、今後、何らかの司法判断が求められる展開が十分想像できるわけです。 

こうしたことを踏まえて、損害賠償にあたっての私の基本的な考えを述べておきたいと思います。

第一に、被害者への賠償は十分に、且つ速やかに行わなければならない、これが最大・最重要の原則だと私は思っています。被害認定や損害査定などでは、正確さと迅速さのバランスをどちらかと言えば迅速さの方に動かして、多少払いすぎになってしまっても速やかに賠償金のお支払いを行っていくべきだと思います。そうした意味でも原子力損害賠償紛争審査会での速やかな指針策定に期待するところですし、当座の資金については国、東京電力双方が最大限努力をして工面すべきです。 

第二に、今回の事故に関する賠償スキーム、国と東京電力の費用負担比率については、十分に時間をかけて法の下で論理的に検討されなければならないということです。 

条文の解釈論争がある中、菅首相や枝野官房長官は「責任は一義的に東京電力が負うべき。同時に政府としても責任をもって臨みたい」と様々な場面で発言をしています。こうした発言は、事故後の東京電力の対応等を見れば、確かに国民感情に沿ったものであるとは思いますし、現実的には、誰も被災者に対する賠償を行わないということは政治判断としてもあり得ないでしょう。

しかしながら、感情とは別に、利害関係者、責任者が複数存在する時に、徹底的な事後検証を行い、原因の所在と責任の所在と明らかにし、それらに基づいた論理的な責任分担を法に照らして決定する事は非常に重要です。またこの賠償が「原子力損害の賠償に関する法律」の適用でなされるのか、あるいはこの法律の枠外で行われるのかもしっかりと議論されねばなりません。 

東京電力は、仮払金の支払いを始めましたが、この仮払金は「賠償金」ではなく「補償金」という非常に微妙な表現で支払っているのも、損害賠償責任の所在がはっきりとしていない今の段階で「東京電力に無過失責任あり」という立場を明らかにすれば株主代表訴訟を起こされかねないからでしょう。 

日本は資本主義の経済制度を採る、自由主義国家であり、この制度を維持していく上で一番重要なのは、ルールに対する信頼を損なわないことです。「超法規的措置」という言葉がもてはやされることがありますが、国の負担によって国民個人や法人に援助を与えるような場合であればともかく、逆に超法規的措置によって個人や法人の権利を侵害するようなことは決して行ってはならず、それは東京電力という法人に対しても同じであって、感情だけに依拠しないように気をつけていきたいと思っています。 

最後に、金融市場の立場からどう見るかを簡単にご説明します。

まず株式市場ですが、東京電力が今後一部国有化、完全国有化などなされるか否かに関わらず、株主はかなりの株主責任を取らされることになるでしょう。海江田経済産業大臣は「93万人いる株主の中にはお年寄りもいて、配当を生活費の足しにしようと考えている人もいる」と、あたかも株主責任を問わないかのような発言をしていますがそうした姿勢は全く受け入れられるものではありません。しかしながら東京電力の株価は株価純資産倍率(PBR)ですでに2割程度まで落ち込んでおり、株主にしてみれば実質的に減資が行われているに等しい状態となっています。また将来かなりの期間にわたってキャッシュフローのほとんどを損害賠償にあてなければならなくなれば、わざわざ既存の株主に対して制裁措置をとるまでもなく、東京電力の株式は投資資産としての意味をほぼ失うでしょう。 

債券市場で言えば、東京電力の社債残高は5兆円を超えます。電力会社が発行する電力債は一般担保付き社債と呼ばれ、無担保の銀行融資とは異なって、破産法が適用されるような場合の残余財産への請求権では一般債権(損害賠償請求権を含む)より上位に位置し、格付けが高い為に発行利回りは低く抑えられてきました。電力事業会社はこのような電力債発行や銀行からの低利借入などを大量に行うことで、大規模な設備投資を行ってきました。東京電力の社債が今後の議論の中でどの様に扱われるかは、他の9電力会社の今後の事業に大きな影響を及ぼすことになり、ひいては社債市場全体の問題となるので、私としては、一般担保付き社債権者は守られるというスキームであるべきと考えます。 

繰り返しになりますが、とにかく迅速に十分な被害者補償をまずは国・東京電力双方で行うこと。そしてその後十分な時間をかけて国と東京電力の間での責任分担を法に則って合理的に決定すること。この二つが非常に重要だと考えています。勿論、更にその後で今後の原子力行政のあり方や法制度のあり方は十二分に検討し、あらためるべきはあらためていかなければなりません。 

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