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2011年08月09日 (火)

米国債の格下げ

アメリカの格付け機関スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が8月5日、アメリカ合衆国長期債務の格付けをAAAからAA+に引き下げました。S&Pはその理由として、この困難な経済、財政状況においてアメリカの政策決定プロセスの効率性、安定性、そして予測可能性が低下してきていることを挙げています。格付けが実体経済や金融にどんな影響を与えるかは色々な見方があり、金融業界から多くのレポートなどが発行されることでしょう。格付けをベースにした投資は、与信リスクの判断を他者に委ねるもので、大きな問題があると思います。そもそもアメリカがErisa法を制定したときに、格付けによる投資適格性の概念を導入してしまい、一部の民間企業による格付けを多くの投資家が盲目的に利用して政府もそれを助長してきたことが、リーマンショックの一因だと言うこともできるほどであり、私は格付けに依存して投資を行うことに余り肯定的ではありませんので、格付けが下がったからどうだという強い感想はありません。しかしこの格下げが意味することを、二つの観点からお話ししたいと思います。

まず、今回S&Pが格付け理由として挙げている政策決定プロセスの問題です。格付けは将来の倒産確率、あるいは損失確率などをもとに決定されていますが、AAAとAA+の差は極めて小さなものです。どちらも塵のように小さな確率ですから、AAAからAA+に格付けが低下した時のリスクの増加を定量的に考えても余り意味がありません。逆に言うと、AAAだろうがAA+だろうが、債務が履行されないようなことはまず起こらず、その二つの差は通常の人間が認識できる確率の差よりもずっと小さなものであり、格下げは象徴的な意味しか持たないと言うこともできます。債務を履行する、特に国家がその債務をしっかり返済すると言うことにおいては、債務を返済する能力と意思の双方が重要です。能力という意味ではアメリカや日本の経済力を考えると返済する能力に問題は無い、あるいは取り立てて最近大きく変化したというものでもないでしょう。

日本がAA-に格下げされた時にせよ、今回のアメリカの格下げにせよ、問題は意思、すなわち、返す気持ちがあるのかどうか、ということです。勿論借金を最初から踏み倒そうとしているわけではありませんが、対GDP比や対税収比で大きく膨らんだ国家債務を弁済するには、当然様々なところから弁済資金を捻出してこなければならず、社会福祉水準や行政サービスなどをカットしていくことが必要になるかも知れません。しかも、「放っておけば将来景気が良くなって何とかなるだろう」などと甘えず、今自分が痛みを甘受しながら弁済する意思がなければならないのです。今回のS&Pの判断は、最近の米国議会の議論を見るとそういった辛い意志決定をする能力が弱まっているという認識に基づくものだと思います。最初に書いたとおり私は格付け自体が大きな意味を持つとは思いませんが、この判断の方向性は正しいものだと思いますし、日本の国会議員としても強く認識するべきことだと考えています。

もう一点は、格付けはあくまでも確率の話なのですが、倒産、あるいは損失の可能性が、決してゼロでは無いと言うことです。AAAと言えども、今回のような格下げの可能性、損失が直接発生する可能性すら有るわけです。金融の世界、特に資産運用の世界では無リスク資産という言葉を使います。文字通りリスクが無い資産という意味で、無リスク資産に投資した場合に得られる収益が資産運用理論の一番ベースになる収益率です。この無リスク資産というのはユニコーンのような想像上のものとも言われるのですが、通常はドル建てであれば米国債、円建てであれば日本国債をあてて考えます。しかし、この無リスク資産と考えられている米国債ですら実はリスクがあるのだということを、今回の格下げは思い出させてくれたのではないでしょうか。

私は、外為特会でアメリカ国債に投資するのではなくドル建国債やドル建ての財投機関債に投資するべきだとずっと主張し続けています。それに対して野田財務大臣は8/9の財政金融委員会で、私の提案に対し、外為特会は外為法第7条により「本邦通貨の外国為替相場の安定」を目的としていることから復興資金としての活用はできない旨の答弁をしましたが、それがネックなのであればその法律を改正すればいいだけのことです。国会議員の仕事は言うまでもなく立法することであり、時代の要請の合わない法律があるからできないなどというのであれば、まさに思考停止といわざるを得ないのではないでしょうか。

また野田財務大臣はこれまで、例えば政策投資銀行がドル建債を発行すれば調達金利が上昇するなどという見当違いの答弁もしています。私は外為特会がこれらのドル建国債やドル建て財投機関債を全額引き受けすることを提案しているので、金利は様々な条件を勘案しながら発行体である財務省理財局や政投銀と投資家である外為特会が決めることになります。この時、外為特会は米国債の金利と比べてどれだけの上積みを要求すべきなのでしょうか。米国債はドル建て資産の中では無リスク資産であるなどというナイーブな思い込みを捨て去った場合、アメリカ政府の財政リスクと自分の別の財布(理財局、あるいは国債整理基金)や子供(政投銀)を比べてどちらがより高いリスクであると考えるべきなのでしょうか。少なくとも、投資家としての日本国政府から見た場合、アメリカ政府のリスクの方が小さいと簡単に答を出してしまって良いような問題ではないと思います。

金融市場は決して万能ではありません。しかし、様々な気づきを我々に与えてくれます。これからも、常に広く情報を集め、深く考え、政策に活かしていきたいと考えています。

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