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2011年07月08日 (金)

持続可能な年金制度の構築に向けて―(2)

さて年金の第2の問題点として、私は運用のあり方に注目しています。

年金基金・積立金を見ると、積立方式では現役世代が支払う保険料がどんどん積み立てられていきますので、多額の年金資産が管理、運用されることになります。一方、賦課方式はある時点で年金給付に必要な財源を保険料の形で徴収すれば良いという仕組みですので、原則的に多額の積立金は不要です。年金保険料徴収と年金給付のタイミングのずれをカバーするのに十分な額の積立金があれば良いということになります。

日本の年金制度は正確には「修正賦課方式」と呼ばれています。これは、賦課方式を採っているにもかかわらず人口構成の急激な変化などに備える為に、通常の賦課方式で求められる以上の積立金を保有している制度です。現在の年金給付額は50兆円強ですが、120兆円以上の積立金が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によって運用されています。これは年金基金としては世界最大のもので、世界2位のノルウェーと比べても3倍弱になります。修正賦課方式の元では現在のような多額の年金積立金は不要という議論もできます。これはセイフティー・バッファーをどれぐらい取っておくかの問題ですが、やはり現在の規模である必要性はなく、年金制度の再検討の中で十分に議論されるべき問題と考えます。

積立金が何のために運用されるのか、どの様な運用が望ましいのかということもしっかりと考える必要があります。多額の資金、基金の運用というと、どうしてもその運用によって収益をあげなければならないという発想に陥りがちです。しかし、金融の世界での常識として、高い収益は高いリスクを取らずには得ることができません。ですから、運用収益を求めるという事は運用にリスクを負うという事と表裏一体なのです。問題は、年金基金がリスクを負って運用されるべき資金なのか否かです。

年金基金のような資金は通常、負債対応投資(Liability Driven Investment、略称LDI)と呼ばれる考え方で運用されます。これは、その資金が何のために積み立てられているかをできるだけ正確に認識し、その目的に合致するように運用する考え方です。例えば年金基金は将来の年金支払いを担保するために積み立てられ、運用されているものです。現在の制度で見ると、年金の将来支払い債務は賃金水準や消費者物価によって変化するので、資産の運用はインフレによって増減するように行う事が目的に合致することになります。「増やすことが目的」というのは根本的に間違った考え方です。そもそも、基金の額を増やさないと年金支給に問題が起こるとすれば、それは運用の問題ではなく制度設計に問題があるはずです。そもそも年金基金はリスクを取って運用益を狙うような資金ではないのです。

現在の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による運用は、その意味ではかなり真っ当な、王道の運用をしていると考える事もできます。運用資産の多くが国内債券になっています。ただし、今後基金の規模を見直していくのであれば、そうした議論の中で、基金の性格、その果たすべき役割を明確化し、インフレ対策、あるいは賃金水準やGDP水準などといったものに対する対策を運用方針の中に組み込んでいくべきであると考えています。

私は賃金連動債、GDP連動債、あるいは物価連動債といった金融商品が年金基金の投資対象としては適していると考えています。しかも年金負債の長期性を考えると、かなり長期で信用リスクの低い債券、即ち超長期の国債としてこれらの連動債が発行されれば、公的年金のみならず企業年金や保険会社の年金勘定にとっても適切な投資対象となるでしょう。第1の問題で触れたリバースモーゲージ同様、このような金融技術の革新を持続可能な制度設計に活かしていくことは非常に重要であり、今後も継続的に働きかけていきたいと考えています。

さて最後の3点めは、これまでも様々な機会に言及してきていることですが、財政運営に関わる司令塔が不在であるという問題です。第2の問題の最後でインフレ対策や賃金上昇率などを考慮した運用が必要だと書きましたが、現在のGPIFの運用でもそれは一応考慮されています。「一応」というのには理由があります。それは、GPIFの用いる賃金上昇率やインフレ率が政府の財政運営戦略の中で共有されていなかったり、一貫性がなかったりするからです。

例えば平成16年の財政再計算の前提としては、名目で3.2%の運用利回りが前提として設定されていますが、これは物価上昇率1.0%と実質賃金上昇率1.1%、実質長期金利2.0%を仮定した上での数字です。名目賃金上昇率は2.1%(1.0%+1.1%)になりますから、名目賃金上昇率を1.1%上回る運用利回り(1.0%+1.1%+1.1%)が求められていたことになります。年金の支給額は報酬比例部分(厚生年金)が多いので賃金上昇率をベースに考える事が重要です。(平成21年財政検証の前提ではこの1.0%+1.1%+1.1%の3.2%が1.0%+1.5%+1.6%の4.1%に変更されていますので、実質賃金上昇率と実質的な運用利回り目標が高められたことになります。)物価上昇率は日銀が目標とする数値をそのまま使っているのでしょうが、実質賃金上昇率の1.1%や実質長期金利の2.0%も含め、これらの前提値が政府内で様々な財政政策シミュレーションなどに用いられている数値、あるいはモデル内での中間変数などと整合性があるのか、非常に疑問です。

従前からお話ししてきたとおり、国家財政戦略は経済財政政策担当大臣がいて国家戦略室が存在する内閣府が担当すると考えられています。一方で税や国の債務管理、予算などを管理しているのは財務省ですから、この二つの省庁では賃金上昇率やインフレ率などのパラメーターなどだけではなく、経済のどこをどれぐらい押せば、どこにどれぐらいの反応が起こるといったような、マクロ経済モデルも共有していてもらわないと困ります。政府が特定の予算を計上して歳出を行ったとき、そこには一定の政策効果が見込まれている筈です。特に「成長戦略」などという旗印のもとで行う歳出においては、それがどの様なタイミングでどれぐらいの規模の効果をもたらすのか、そしてそれが将来の税収にどの様な影響を与えるのかなど、正確にはわからないとしても何らかの理解の枠組、つまりモデルを、政府内で共有していることが重要です。

そして、年金支給は先にも申し上げたとおり年間50兆円を超えています。年金保険料の算出にせよ、支給額の計算にせよ、積立金運用計画の策定にせよ、マクロ経済モデルのパラメーターが多く使われています。これらのパラメーターが国家財政運営に大きな影響を与えることは明らかであり、一つの司令塔の元で、年金財政も含めて国家財政を運営していくことは極めて重要です。これまで財務省と内閣府のどちらが司令塔なのかという質問に対しても、満足のいく回答を得ることはできませんでした。これに厚生労働省という巨大組織が加わったとき、一体この国の財政運営に統合的な見通しを持つ人がいるのでしょうか。残念ながら今の政府、内閣の中には、一切見当たりません。

今回は2回にわたって、私が考える3つの問題意識をご説明してきました。第2、第3の問題はすぐにでも取りかかることが可能であり、引き続き継続的に主張していこうと思っています。制度的な問題ですから、ひたすら正論を主張し、戦うのみです。一方で第1の問題は、本質的かつ一番重要ですが、政治的な問題であり、時間がかかるものです。しかし、すぐにでもできる、いや、やるべき支給額の抑制が一つあります。それは、年金水準を現行の計算方式の元で本来有るべき水準まで減らすことです。

年金は従来から物価水準に連動して支給額を調整する仕組みになっていました。勿論当初の意図は、インフレになった場合に支給額が増えないと困るからというインフレ対策でした。この年金の物価水準連動性が、平成11年度以降停止されているのです。平成12年度から14年度までは物価スライド特例措置として、デフレであったにもかかわらず年金額が削減されなかったために、法律上想定されている支給額と実際の支給額の間に1.7%の差が発生しました。その後もこの差は解消どころか増加しており、平成23年度の支給額は平成16年改正後の法律が規定する本来の年金水準よりも2.5%高いものになっています。

世代間扶養にそぐわない人達への年金支給額を減らす等の措置は、じっくり話し合って合意を形成した上で行われるべきものですが、この2.5%の解消は、今すぐにでも議論し、是正していくべきではないでしょうか。年金支給額は年額50兆円以上ですから、その2.5%というのは決して小さな額ではありません。政府案では3年かけてこれを解消していく事が盛り込まれていますが、何故すぐに全額解消することができないのでしょうか。そもそも痛みは皆で分け合わなければなりません。またこの「痛み」は今まで甘くされていたものを本来有るべき水準に戻す痛みですから、なおさら時間をかけて行う理由は存在しないでしょう。政府案ではこの2.5%の特例解消による効果が公費分についてのみ、しかも3年にわたって行うものと計算されているので、毎年の公費縮小が0.1兆円程度となっています。つまり、3年で0.3兆円の累計ですから、支給額全体で考えればさらにこの3倍程度、1兆円程度の支給削減に繋がります。しかも、これはすぐにでも始められる改革なのです。

社会保障改革は問題の大きさ、複雑さのために気の遠くなるような課題です。しかしこれからの日本のあり方にとって、非常に重要な問題であることは間違い有りません。政府案で問題である点、足りない点について一つずつ問題を解決していかなければならないと思っています。

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