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2010年03月08日 (月)

「ボルカー・ルール」

今回はアメリカの金融規制法案についてです。

米国でオバマ大統領が1月に発表した金融規制強化案は、経済回復諮問委員会委員長を務める元FRB(連邦準備制度理事会)理事長のボルカー氏が立案したとされ、「ボルカー・ルール」と呼ばれています。今日はこの「ボルカー・ルール」について書いてみたいと思います。

ボルカー・ルールの内容は大きく分けて二つですが、第一が連邦準備制度に参加している、即ち銀行として預金を受け入れている金融機関は、大がかりな自己勘定取引やヘッジ・ファンドへの投資を行ってはならないというものです。もう一つはバランスシートの大きさを規制するもので、これは「トゥー・ビッグ・トゥー・フェイル」と呼ばれる状況を防ぐためのものです。いずれも、ゴールドマン・サックスやJ.P.モルガンなど大手金融機関の営業に大きな影響が予想されています。

銀行が資金繰りに困らないようにするために、日本では日本銀行、アメリカでは連邦準備銀行(連銀)が資金を供給する仕組みがあります。今回のような金融危機でもこれら中央銀行が資金供給を行いましたが、日銀や連銀がいざというときに資金を供給するのは、預金を受け入れている銀行だけです。この緊急時の資金供給は預金者保護のためだからです。

ところが、銀行の資金不足が預金引き出しのためかどうかの判断はできませんから、銀行が資金不足になれば 中央銀行はとりあえず資金を供給することになります。預金受入銀行としてシステムに組み込まれていれば、いざというときにはいつでも中央銀行が資金を供給してくれるという、おいしい仕組みが存在するのです。これを利用するため、今回の金融危機のさなか、ゴールドマン・サックスのような投資銀行(証券会社)が一般の銀行としてのステータスに自らを変容させたのです。

危機をしのぐ段階ではとりあえずこのようなことが認められましたが、少し落ち着いてくると「ちょっと待てよ」という事になります。それがボルカー・ルールの背景です。本来は預金者を保護するために資金供給するシステムが、リスクをバンバンとって金儲けしている金融機関に使われるのはおかしいではないかということなのです。ですから、ボルカー・ルールは金融機関に、大がかりなリスクをとって金儲けがしたいか、大人しく銀行らしくふるまって、いざというときには連銀に助けてもらえるようにしたいかを選べと言っているのです。

私は自由主義的な考え方をしていますから、何でもかんでも規制というのは反対です。ましてその規制が、特定の企業や業界、団体を狙い撃ちにしていじめようとするような規制には、大反対です。

では、ボルカー・ルールはどう考えれば良いのでしょうか。私は、ボルカー・ルールは本来連邦準備制度ができた時点で組み込まれているべき規制だったと考えています。つまり、ボルカー・ルールの目的には賛成の立場です。

しかし、その提唱のタイミングや具体的な 実施方法と期待できる成果に関しては問題があると考えます。以下、それらについてお話しします。

まず、賛成する立場をご説明しましょう。国家が銀行に対していざという時の資金供給などを請け負うのは、それが社会全体の不特定多数に益をもたらすと考えられるからです。その代わり銀行に対して、一定の金額を中央銀行に積み立てることや、ある水準の自己資本比率を守ることなどを要求します。銀行が不当に有利な立場にならないようにするためで、これは正当な考え方だと思います。ボルカー・ルールもこの文脈で考えると、本来は最初から存在するべき規制だったと思えるのです。

一方で、このルールに関してはいくつかの懸念も存在します。まず、これは特定の企業や業界を狙い撃ちにしたものであり、ポピュリズム的なものではないかという批判があります。ボルカー・ルールが提唱されたタイミング(マサチューセッツ州の上院補欠選挙での民主党敗北直後)や大統領の金融業界に対する「勧善懲悪」的なパフォーマンスを見ると、多少はポピュリズム的な人気取りの色合いも存在するのではないかと思います。

勿論、欧米で議論されている、公的支援を受けた大手金融機関のボーナスに対する直接、間接の追加課税のような勧善懲悪パフォーマンスのポピュリズム政策とは、ボルカー・ルールは本質的に全く異なります。

もう一つボルカー・ルールの本質的な問題点を挙げるなら、このルールは恐らく今回のような金融危機を防ぐことに対してほとんど効果を持たないだろうと言うことです。最も先進的な考え方や行動を取る大手金融機関を相手に、ある特定の形の取引や行動だけを禁止したとしても、金融機関は別の方法で同じリスクを取るようになるだけでしょう。特定の取引やバランスシートの大きさと言った外形的な形式ではなく、金融機関の抱えるリスクの本質に迫るものでなければ、規制の効果は大きくはならないと思います。

最後にもう一点付け加えると、ボルカー・ルールを米国が推し進める場合、ヨーロッパとの関係が問題になるでしょう。ヨーロッパはご存じの通りユニバーサル・バンキングの伝統を持つ地域で、銀行、証券の垣根は昔から存在しませんでしたし、ボルカー・ルールには根本的に反対の立場です。米国だけがボルカー・ルールを実施すれば米国金融機関は欧州金融機関に対して不利な立場になるでしょうから、米国とEUがどのような交渉をするのかに注目したいと思います。

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