中西けんじ公式ホームページ(参議院議員:自由民主党 神奈川県選挙区)

国際金融のプロ。最前線にいたからワカル!日本のココが変!

2012年08月21日 (火)

債務管理政策と金利スワップ

前回とは打って変わって今回は財政・金融の話ですが、かなりテクニカルな話です。皆さんは金利スワップというものをご存じでしょうか。私はJ.P.モルガン在職時代に債券やデリバティブの営業を行っていましたが、金利スワップはその中でも基本中の基本、日本国債(JGB)に次いで最も重要なものでした。今回のお話は、そのスワップと日本国債の債務管理政策に関してです。私は財務省がこれまで行ってきた金利スワップ取引は、本来行うべき取引の逆方向の取引であり、修正すべきだと考えています。修正した正しい方向の取引であれば、国債発行に関わるリスクを削減するのみならず、国債利払い費の削減にもなります。さらに国債管理政策だけではなく金利市場に働きかける一種の「金融緩和」効果もあると考えています。つまり、これまで財務省が行ってきた金利スワップ取引は大間違いで、逆方向の取引に変えていかなければならないということです。

 

まず、金利スワップとはどのようなものか、簡単にご説明しましょう。スワップというのは「交換する」という意味で、金利スワップでは固定金利と変動金利の交換を行います。AとBが金利スワップを行う場合、ある想定元本に対して例えばAがBに固定金利を支払い、BがAに変動金利を支払います。固定金利を受け取り変動金利を支払うことを「受け」のスワップ取引と言い、固定金利を支払って変動金利を受け取ることを「払い」のスワップ取引と言います。(変動金利は円の金利スワップ取引の場合は通常6ヶ月LIBORを用います。)このように金利スワップ取引では、固定金利と変動金利の支払われる方向が株や商品取引での売買と同じような意味を持ち、「売る」「買う」の代わりに「払う」、「受ける」と言ったりします。

 

さて、財務省は平成17年度から債務管理政策の一環として金利スワップを取り入れています。平成21年10月以降の取引はありませんが、平成24年3月末で受けのポジションが2,900億円、払いのポジションが2兆500億円あります。圧倒的に「払い超」の状態です。

 

そもそも何のために金利スワップを使うのでしょうか。財務省の考え方は、2005年版債務管理レポートによれば、第一に国債を借り換える時点での金利上昇に備えること。そして、副次的には国債発行計画に修正変更が加わった場合の固定・変動比率の調整が目的とされています。主目的の方だけを考えると、国債が償還を迎えて借換債を発行する時に、金利が上昇していて利払いが増えることをヘッジするために、金利が低い間にスワップの「払い」のポジションを作っておくことになります。

 

この考え方は、金利スワップを債務管理政策に活用しているフランスやドイツなどと大きく異なります。フランスやドイツは、国債の発行は投資家の需要の高い年限、つまり発行体としての国にとって比較的有利な条件で発行できる年限で行い、金利スワップは固定金利の受けを行う事で利払い費の削減を行っています。短期よりも長期の金利の方が通常は高く、イールドカーブは右肩上がりになっています。投資家はある程度高い金利でなければ国債購入のメリットを感じませんので、多くの投資家が年限の長い国債を好む傾向にあります。一方、金利スワップで固定金利の受け、変動金利の払いを行えば、ネットで金利収入が発生し、国債に対する利払いと併せた総利払い費が削減されることになります。

 

国の債務管理政策は様々な目標をもっており、また極めて長期にわたるものです。しかも国の債務管理政策そのものが経済・金融に大きな影響を与えかねず、債務管理政策を最適化していくことは容易ではありません。一方で、日本のように公的部門の債務総額がGDPの2倍にもなる国では、債務管理政策が極めて重要であることも間違いありません。

 

債務管理政策が持つ様々な目標の中で、重要であり、かつ多くの人が納得するものとして、利払い費の削減と資金調達の安定化があげられます。先にご説明したとおりイールドカーブは右肩上がりですから、短期で調達した方が利払いは低くて済みます。ところが短期で資金調達をしていると借り換えをする頻度が高くなる上、借り換えのたびに金利が変化します。従って安定した資金調達を目指すのであれば、出来るだけ長期で借り入れを行う方が良いのです。例えば、非現実的な話ですが、国の全ての債務を40年債で調達していれば40年間は借り換えをしなくて済むことになります。ところが、長期で借り入れれば、イールドカーブの形状のために利払いが高くなります。利払い費の削減と資金調達の安定化は、このように「トレードオフ」の関係にあるのです。

 

そこで登場するのが金利スワップです。金利スワップでやりとりされる変動金利の方は常に6ヶ月LIBORですが、固定金利(スワップ金利)の方はスワップの契約期間に応じて変化します。これも国債金利と同じで、長い期間の方が高くなるのです。(因みにスワップ金利と国債金利の差をスワップ・スプレッドと呼びます。)金利スワップを活用することで、例えば40年で国債を発行していても、40年の固定金利受けのスワップ取引を行うことで、実際の利払いを6ヶ月LIBORとほぼ同じ水準まで下げることが出来ます。フランスやドイツが取っているのは簡単に言うとこのような手法です。国債を長めの年限で発行した上で、利払い費削減のために固定金利受けのスワップ取引を行っているのです。

 

同じ債務管理政策において、日本は固定金利を払っていて、フランスやドイツは固定金利を受けています。この差は市場に対する理解度の違いのように思えて仕方ありません。金融業界で生きてきた人間から見て、自然なのはフランスやドイツのやり方です。日本のやり方は理にかなっているとは言いがたいものです。

 

金利スワップを導入したときに、財務省理財局が一番気にしていたのは国債の大量償還に伴う借り換えで、借り換えの金利が高くなることに対するヘッジとして固定金利の払いを行いました。財務省は利払い費に関して非常に神経質で、CaR(コスト・アット・リスク)という数値を計算しながら利払い費の管理に努めています。これ自体に問題はありませんし、利払い費は当然少ない方が望ましいです。しかし財務省が理解していない重要なことが一つあります。資金調達における一番のリスクは、金利がどうなるかではなく借りられなくなることなのです。毎年40兆円以上の新規国債を発行し、借換債と併せれば実に年間170兆円以上の国債を日本は発行しています。確かに金利は大事です。しかし、これが借りられなくなったとき、日本の息の根は止められます。

 

金利スワップが存在しない世界では、借り入れの長期化によって安定化を図ることは直接に利払い費の増大を招きます。しかし、金利スワップで固定金利の受けを行えば、借り入れを長期化しながら利払い費を抑えることが可能なのです。長期で借り入れをして固定金利受けのスワップを行うことと、短期で借り入れをして固定金利払いのスワップを行うことは、金利に対する感応度の面からは同じように扱うことが出来ます。言い換えると、同じような金利感応度に調整することが出来ます。しかし全く違うのは、借り換えの頻度なのです。

 

少しでも自らの資金調達能力に不安を持つのであれば、借り入れは出来るだけ長期で行い、固定金利受けのスワップ取引によって利払いを削減する。それが普通の考え方ではないでしょうか。いつでも資金調達は絶対に可能で、問題は市場金利の上昇だけだと言うならば話は別です。財務省は明らかにこの立場のようですが、利払い費上昇に対するヘッジとしての効果も若干不確定です。前にスワップ・スプレッドと言う言葉をご説明しましたが、通常はスワップ金利の方が国債金利よりやや高い状態でスプレッドはほぼ安定しており、国債金利とスワップ金利は連動しています。しかし、財政が破綻しそうになって国債発行がままならなくなるような状態になれば、国債金利は跳ね上がるもののスワップ金利はあまり動かないという事態も想像できます。スワップ取引で固定金利の払いをしていても、このような場合であれば利払い費上昇へのヘッジ効果はなくなってしまいます。

 

もう一つ、もっと直感的な観点から考えると、日本国債金利は非常に低くなっていますから、このような低い金利での調達は思い切って長期で行うべきなのです。今の40年金利はほぼ2%です。今後これより少しは下がるかも知れませんが、40年間2%そこそこで借り入れができるのであれば、どんどん債務の長期化を進めるべきです。その上で金利スワップによる利払い費削減をするかどうか考えれば良いのです。フランスは最近、金利スワップ取引を減らしています。なぜならば、金利が十分に低下したと彼らは考えており、この水準ではスワップ無しで普通に長期の資金調達をすべきだと判断しているからです。因みにフランスの国債金利は30年で3%強ですから、日本より高い水準です。

 

もし40年で2%の利払いが高すぎると判断するのであれば、固定金利受けの金利スワップ取引を行い、6ヶ月LIBORの支払いに変換すれば良いでしょう。日銀はデフレからの脱却が明確になるまでは短期金利を0パーセント近辺にとどめると宣言しています。準備預金への付利が0.1%ですので、実際の金利は3年程度の年限までほぼ0.1%です。従って、日銀を信じるのであれば、40年の借り入れを行っても金利スワップを行えば当分の間の利払い費は0.1%程度なのです。

 

また、日銀に更なる金融緩和を求めることの意味は、追加的な資金供給によって市場金利がさらに低下し、民間企業の資金調達コストを低下させられるということです。財務省理財局が債務管理政策の一環として5年、10年などの年限の固定金利の受けを大量に行えば、当然市場金利は低下します。ひょっとすると日銀の追加緩和以上に、直接的な影響をもたらすかも知れません。しかも国債利払い費は固定金利受けのスワップによって削減されるのです。一石二鳥の政策だと私は思っています。

 

債務管理政策における金利スワップの利用は、様々な効果を持つ可能性があります。財務省がこれまでの政策に囚われず、金利スワップを債務管理政策に生かしていけるよう、国会での議論を通じて財務大臣に訴えていきたいと考えています。

 

中西けんじの国会動画
facebook twitter youtube

私の主張

カテゴリ

バックナンバー

このページのトップへ