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2012年03月26日 (月)

モラトリアム法再延長に反対します

みんなの党は、今国会で審議されている中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律の一部を改正する法律案(モラトリアム法再延長法案)に、唯一反対している会派です。なぜ反対しているのか、その理由をご説明したいと思います。

 

まず最初に、この「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(モラトリアム法)がこれまでそれなりの貢献をしてきた事は認めます。効果がゼロであったとはいえないということです。この法律はその名前にあるとおりの臨時措置でした。経済情勢が悪化する中で、本来であれば状況の変化に合わせて企業も金融機関も行動を変化させ、新規参入や撤退などの産業構造変化が起こるべきです。しかしこの変化には時間がかかり、また金融機関に対する自己資本規制などが厳しくなる中、金融機関から中小企業への資金供給が急激に低下する事を避けるのが、この法律の目的です。具体的には、金融機関が中小企業への貸し出しの条件変更(期間の延長や金利引下げ)などを行っても、不良債権としてみなさなくて良いと定める事により、金融機関が中小企業向け融資を継続できるようにしたのです。

 

この法律の下では、企業側も金融機関側も積極的に新しい環境への対応を行い、法律が廃止できる状況になる事が期待されていました。中小企業倒産の急激な増加を防ぐという意味ではこの法律は役に立ったのですが、新しい状況に対応する構造変化は残念ながらほとんど起こっていません。構造変化が起こらないとすれば、この法律は単に問題を先送りするだけの法律だったということです。

 

何故私たちがこの法律の延長に反対するのか。その理由は大きく分けて二つあります。第一に、法律そのものの中身の問題。もう一つは、法律の運用にかかわる問題です。

 

まず法律の中身に関してですが、最大の問題はこの法律が労働者の事を本当に考えているとは思えないことです。中小企業の資金繰りを楽にする事によって延命を図れば、延命された期間を十分に活用して一時的な不振から立ち直ったり、あるいは他業種に業務内容を転換したりすることが可能な企業があります。それならば従業員の将来も、リスクはあるものの明るい見通しを持つことも可能で、努力も報われることでしょう。一方で、延命期間に何も変える事ができない企業も存在します。見方によっては少しずつ変わっているのかもしれないけれど、世の中の時間の流れから考えると動いていないように見える企業も多くあります。このような中小企業は、モラトリアム法の下で金融機関から融資の条件変更を受けたにもかかわらず、その間に業績回復もできなければ業務変化もできず、再度、再々度の条件変更を金融機関に求めています。

 

このような企業は、悪い言葉ですが、ゾンビ企業と呼ばれています。死んでいるにもかかわらず、死に切れていないという意味です。このような企業のオーナー社長達は、勿論事業を守り、従業員の生活を守ろうとしているのだと思います。しかし、すべての企業が永遠に存続する事などありえず、古い企業が消えて新しい企業が生まれる事で経済は発展するのです。ゾンビ企業に雇用されている労働者達は、本当に幸せなのでしょうか。金融機関からの資金が途絶えれば倒産するような企業、どれだけ頑張っても業績が好転せず、新たな業種へ移動していくようなクリエイティビティーもないような企業で働く事に、明るい未来があるとは思えません。労働者には次のステップへと進む権利があり、機会を与えられるべきです。

 

しばしば誤解されるのですが、労働者を守る事と企業を守る事は同じではありません。企業はリスクをとりながら収益を上げるために存在します。したがって、うまくいく事もあればつぶれる事もあります。これについては、システミックリスクが発生するなどの余程の事が無い限り、政府は関与するべきではありません。世の中の生産資源の配分をゆがめてしまい、経済発展を阻害するからです。政府が気にかけるべきなのは、労働者の生活の安定です。雇用者としての企業に100%の安定性がありえないのですから、常に企業理由で解雇される雇用者が存在することを前提に、政府は解雇、再就職のプロセスが、個人の生活にあまり大きなダメージを与えないような政策を取る必要があります。モラトリアム法は、この問題にはまったく貢献していないと私は思うのです。

 

モラトリアム法の中身に関する二番目の大きな問題は、あまりにも行き当たりばったりな法律だということです。具体的には、法律とそれに伴う監督指針の改正によって貸出金の条件変更が行われた先の中小企業が、どうやってその資金の返済ができるようになるかが全くわからないのです。先に書いたとおり、勿論自主的に資金返済ができるようになる企業もあります。しかし、どうやら条件変更対象先の約8割にも及ぶ企業が再度、再々度の条件変更を受けています。つまり、一時的だと思われた経営悪化が継続し、そこから抜け出せないことが明らかになってきているのです。

 

金融庁はこの問題に対してこれまで、金融機関がコンサルティング機能を発揮する事で条件変更先の業績を好転させるとしてきました。これは、到底無理な話です。勿論なかにはうまく行く例もあるでしょう。しかし、業績不振企業に対するコンサルティングは、コンサルティング会社が料金を取りながら業として行っているもので、専門性のある仕事なのです。それを、金融機関の担当者が俄仕込みでできるはずだと考えるのは、いかにも実態を知らないお役所の発想です。

 

当然の事ながら、ほとんどの条件変更先に対して、金融機関のコンサルティングは役に立ってきませんでした。複数回の条件変更を行っている中小企業の多さが、それを証明しています。このままでは今回再度の法律延長を行っても何も変わらないという私達の懸念に対して、今回金融庁は企業再生支援機構の新規案件引受期間を延長する事を対案として出してきています。この機構はもともと地域経済再生に資する企業を助けるために作られましたが、最近ではJAL再生機構と揶揄されています。どうみてもJALで大忙しな機構が30万とも40万社とも言われるモラトリアム法による貸出条件変更先の相手をする事など不可能です。ちなみにこの機構のこれまでの対応実績は22社で、今回の延長によってあと23社の案件を手がける事が、予算上では想定されています。

 

これじゃ無理だろうという当然の批判に対しては、各地にある中小企業再生支援協議会を活用すると言い出しました。これは全国各地にあるのですが、全国合わせても250人程度の人員しかいません。一都道府県あたり平均5名です。しかもモラトリアム法の施行以来、利用が減少しているような組織です。

 

つまり、とりあえず中小企業の倒産増加を防ぐための法律を作って運用を始めたが、そこからどうやって抜け出すかに関しては、景気が劇的に良くなれば良いのですが、それ以外は全く手が打たれていない、そんな法律なのです。非常に無責任な法律だといわざるを得ません。

 

この法律の中身に関するもう一つの大きな問題は、管轄する金融庁の設立目的との整合性です。金融庁設置法を見ると、金融庁の任務は「金融庁は、我が国の金融の機能の安定を確保し、預金者、保険契約者、有価証券の投資者その他これらに準ずる者の保護を図るとともに、金融の円滑を図ることを任務とする。」と定められています。モラトリアム法に「円滑」という言葉が使われているのはこの任務に何とか関連付けようという苦肉の策ですが、金融庁の本質的な目的は金融システムの安定と投資家保護であることは明らかです。中小企業を守るためには経済産業省、中小企業庁が存在し、雇用者を守るためには厚生労働省があります。

 

もちろん私は、縦割りの政策を進めよと言っている訳ではありません。しかし政策は、各省庁間のチェック・アンド・バランスによって進められるべきものです。中小企業庁、厚生労働省が中小企業や労働者保護の観点から金融機関に対応を求め、それに対して金融庁が金融システム保護の観点から反論しながら、妥協点を見つけ、協力して問題に当たるもののはずです。しかし、何故か金融庁を管轄する大臣がこの法律を作り上げ、今に至っています。中小企業庁や厚生労働省からしたらありがたい話でしょうが、いつまでたっても状況が変化しないのは当たり前です。金融行政の立場からすれば、少しの間なら猶予をあげるよと言う以上に何もできるはずはなく、その先の企業再生や労働者対策は管轄外なのです。金融庁の担当者達も苦しいだろうなと思います。本音を言えば、この法律は延長するのではなく、さっさと廃止したいのではないでしょうか。

 

さてこの法律には、中身だけではなく運用面でも大きな問題があります。法律を作って政策を実行するとき、うまく行っているかどうかを適切にモニタリングしながら、問題があれば対応を行っていく事が重要です。その観点からこの法律を見ると、どれぐらいの企業が再度、再々度の条件変更を行っているかを知る事は、企業再生の進捗状況を知る上で非常に重要です。さらに、金融システムの安定性を守る金融庁の本来の役目から考えると、条件変更済みの貸出金が貸出総量に占める割合、それらに対して貸し倒れ引当金がどれぐらい積まれているのか、あるいは引き当てがされていない条件変更債権が自己資本に対してどれぐらいの割合になるのかなど、適切にモニターする必要があります。しかし、驚く事に、金融庁はこれらの数字を把握していないのです。ヒアリングベースで一定の情報を集めてはいるようですが、金融機関に対して報告義務を課していません。法律の中身も行き当たりばったりですが、運用も行き当たりばったりです。

 

今回はモラトリアム法延長が審議されているのですが、実は金融庁の監督指針は法律の延長如何に関わらずそのまま残るようです。この法律の下で、条件変更済貸付金を不良債権とみなさなくて良いというように監督指針が変更されたのですが、法律が仮に消えても監督指針が元に戻らないのであればあまり意味はありません。今回はみんなの党以外の各党派が延長に賛成しているのでモラトリアム法自身は延長されてしまうのでしょうが、監督指針の今後の修正を含めて、粘り強く問題点の指摘を続けていかなければならないと考えています。

 

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