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国際金融のプロ。最前線にいたからワカル!日本のココが変!

2011年12月15日 (木)

格付け

また格付けが注目を浴びるようになってきています。今年は1月にS&Pが日本国債の格付けを引き下げ、8月5日には米国債を格下げしました。8月24日には今度はムーディーズが日本国債を格下げしています。ちなみに、ムーディーズは米国債を格下げしていません。そして秋になると、S&Pが9月19日にイタリアを格下げ。10月4日にムーディーズが同じくイタリアを格下げ。さらに10月13日にはS&Pが、18日にはムーディーズがスペインを格下げしています。ムーディーズは11月29日に欧州15カ国の87銀行の債務格付けを引き下げる方向での見直しを発表し、12月9日には実際にフランスの大手三行を格下げしました。S&Pは12月5日にドイツやフランスなどユーロ圏15カ国のソブリンを格下げする可能性を発表し、さらに6日には欧州金融安定基金(EFSF)の格付けも引き下げる方向での検討開始を発表しています。12日にはムーディーズがあらためて、来年第一四半期にEUすべての国の格付けを見直すと発表しています。格付会社にとっては大忙しの一年でしたし、当分この状態が続きそうです。

格付会社は格付機関と呼ばれることもありますが、もともと公的な組織ではありませんでした。100%民間の会社で全く政府の監督を受けていない存在だったのですが、1975年に米国では「公認格付機関(NRSRO)」という概念が成立しました。それ以前からも格付けは米国の広義の金融監督で用いられてきましたが、この時点で「公認」という存在になったのです。2002年とずいぶん前のものですが、エンロン破綻を受けて作成された上院政府問題委員会スタッフによる報告書には、8つの連邦法、47の規則、100以上の州法(”at least eight federal statutes and 47 federal regulations, along with over 100 state laws and regulations”)で、公認格付機関格付けが利用されていると書かれています。年金や投資信託、証券会社の規制などで広く使われています。そして2006年にはとうとう格付機関改革法(Credit Rating Agency Reform Act of 2006)が作られ、SECによる監督の枠組みが作り上げられました。日本でも「金融商品取引法に基づく開示制度等において利用される格付機関を明らかにするため」に指定格付機関制度を金融庁が定めています。ここには格付投資情報センター(R&I)や日本格付研究所(JCR)の他に、ムーディーズ、S&P、フィッチといった「外資」も指定されています。日本の格付会社もNRSROにR&IとJCRが入っていましたが、R&Iは今年10月に米SECに対して登録取り下げを申請しました。

このように格付けは日本でもアメリカでも金融監督行政に深く入り込んでいます。このことが多くの問題を引き起こしてきました

そもそも「格付け」というのはアメリカでの正式呼称”Nationally Recognized Statistical Rating Organization”を見ればわかるとおり、統計的な倒産確率、損失確率を、数字ではわかりにくいのでAとかAAとかグループ分けしているだけのものです。すべてがモデルに基づいた確率の話であり、これら大手格付会社と異なる意見を持つアナリストも存在します。つまり、万人が同意せざるを得ない物理的法則などによって決まっているものではなく、その時々で格付会社が用いているモデルと入力変数によって計算されるもので、不確実であり、いつ修正されるかわからないものです。

格付けに意味が無いわけではありません。格付会社は莫大な予算を組んで情報を集積し、モデルを構築して債券発行体の返済能力の分析を行っています。その分析結果には明らかに価値があります。問題はそれがいつの間にか公的なものとして使われるようになってしまったことです。米国のように「公認格付機関」であったり日本のように「指定格付機関」であったり、国が公認したり指定するとその民間企業が報告する格付けが絶対のように思えてきます。なんと言っても、格付会社の格付けに従って監督行政が行われたりするわけですから、例え金融機関の独自の分析が格付会社のそれと異なった結果を出していたとしても、最終的には格付会社の判断に倣わざるを得ません。

これは三つの問題を引き起こしてきました。一つは金融機関の内部における与信審査能力の衰退です。大手金融機関であればともかく、中小金融機関になると格付けを100%信頼してその通りの判断をしていくことが、最も容易で合理的な道となってきました。二つ目は、仮に格付会社のモデルの不具合に大手金融機関が気づいたとき、それを利用して一儲けしようという動機が金融機関に発生することです。同じ発行体であっても例えばムーディーズとS&P、フィッチの間で格付けが異なることは昔から良くありました。特に証券化商品となると、それぞれの格付会社に「癖」があり、証券会社はそれを活用します。三つ目は、格付会社の判断が投資行動の基準になっていると、どうしても金融システムの中にシステミック・リスクが発生しやすくなります。自分で考えるよりも人に考えて貰う方が簡単だと皆が思い始めると、本来皆がばらばらな投資行動をとることで保たれているはずの市場の安定性が、極端に一方向に振れるようになったりしてしまうのです。アセットバックCPやサブプライムは、良い例です。

金融監督当局の格付けの利用は、ノルウェー輸出金融公社の大幅な格下げで個人や中小企業にも影響を与えることになりました。この公社は半官半民の資本構造を持つ、日本のJBICの様な役割の金融機関です。これがEUの資本規制の問題で上手く機能しなくなってきたので、ノルウェー政府が他の政府部門で公社の仕事を肩代わりさせると発表したために、11月22日にムーディーズがAa3からBa1へと7ノッチ引き下げ、25日にはS&PがAAからBBB+へ5ノッチ引き下げたのです。本当に公社の債務弁済能力が低下したのかどうかはともかく、5ノッチや7ノッチの引き下げともなると、価格が大幅に低下するのみならずムーディーズの引き下げではいわゆる「投資適格債券」でなくなりました。ジャンク債と呼ばれるカテゴリーにされてしまったのです。個人や中小企業などがデリバティブの組み込まれた仕組債を購入するとき、ノルウェー輸出金融公社は頻繁に用いられる発行体でした。政府がお墨付きを出している格付会社がAAやAa3といった高い格付けを付与していると証券会社から説明されると、金融にそれほど詳しくない投資家であれば仕組債自身に必要以上の安心感を覚えてしまうでしょう。

今回の一連のヨーロッパの格下げを見ていても、確かに格付会社にとっては状況の変化によって、明らかにモデル上の債務不履行確率が変化してきており、それをタイムリーに格付けに反映させて公表していくことは重要なのでしょう。しかし民間企業の格付けと違い、日本、アメリカ、ヨーロッパなどの国債格付け、あるいはEFSF債の格付けは、政治によって大きく左右されるはずのものです。従って本来の格付会社の強みが必ずしも生かせる分野ではありません。それなりに割り引いて考えるべき情報のはずなのですが、金融監督行政にここまでしっかり組み込まれていると、額面通りに受け取らなければいけなくなってしまいます。これは、画一的な金融監督行政が場合によってはシステミック・リスクを増大させている可能性すら存在することを意味します。

日本においても、地方金融機関や小規模投資家の行動パターンなども十分に考慮した上で、格付けとどのように行政が関わるべきかをもう一度考え直してみるべきだと思います。投資対象のリスクを判断するのは、あくまでも投資家です。その為の参考情報として外部の調査分析を活用するのは大変結構ですが、最終的な投資判断を他人にゆだねることはできません。「われわれはA格以上しか買いませんから」というような他者に依存した「投資判断」は投資家にとっても、金融システムにとっても危険であるということを、再認識する必要があると思います。自分で判断できないのであれば、そのような投資対象への投資を行わないという決断も、視野に入れるべきではないでしょうか。

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