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国際金融のプロ。最前線にいたからワカル!日本のココが変!

2013年03月14日 (木)

デフレ脱却と賃金~クルーグマンの最新ブログを読んで思う

アベノミクスをめぐっては週刊誌等でもさまざまな「議論」が展開されており、良きにつけ悪しきにつけ、何かが変わるのではないかという期待は間違いなく高まっています。デフレからの脱却、緩やかなインフレ状態の達成が望まれているわけですが、少し落ち着いてなぜ日本だけがこれほど長いデフレに陥ったのかを考えてみると、いろいろな要素が浮かび上がってきます。もちろん日銀の不作為という理由付けができますが、最近(3月5日)のクルーグマン教授のブログではかなり異なった議論が展開されています。

 

クルーグマン教授は昔はFRB議長就任以前のバーナンキ教授と同様に、大胆な金融緩和を行えばデフレは防げる、あるいは脱却できるという立場でした。しかし一方で金融政策がインフレ期待を生み出すためには、中央銀行は大幅なインフレを許容するような無責任な存在だと市場に信じ込ませることが必要だと考えていました。彼の近年の主張は、景気回復は財政政策が主導すべきで、金融政策はあくまでも政府の一員として協力すべきというものです。因みにリーマンショック後の2009年6月LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)での講演で、クルーグマン教授はここ30年間のマクロ経済学は「良く言っても役立たず、悪く言うと有害だ」とまで話しています。

 

そんなクルーグマン教授が、日本以外の世界各国がデフレの直前まで行きながらなぜ踏みとどまることができたのかを、3月5日のブログに再び書いています。他の人たちの研究、特にサンフランシスコ連銀の研究などを引きながらの今回の記事を簡単にまとめると、賃金には強い下方硬直性(賃金は下がりにくいという性質)があり、そのためにインフレというものは粘着性を持っており、なかなか無くならない。過去の景気後退期のデータを見ると、最初にデフレが起こっても賃金に支えられる形で、直後にインフレが訪れているという主張です。つまり、経済をデフレ突入から守った要因にはさまざまなものが考えられるが、賃金の下方硬直性が重要だということなのです。金融緩和策などによって需給ギャップが縮小してデフレから脱却できるというのではなく、あくまでも賃金が下がらないためにデフレには成らなかったという主張です。これを拡大解釈すると、デフレから脱却するためには金融緩和だけではなく賃金を上げていく仕組みを作る必要があるということになります。

 

この記事は、改めて日本と海外の違いを明らかにしてくれます。日本では1990年代後半から現在に至る景気後退期において、解雇による失業率上昇を甘受しながら賃金水準を確保するという道を選ばずに、ワークシェアや賃下げによって雇用をできる限り確保しながら賃金水準を低下させてきました。1998年頃からの名目賃金の低下は、日本だけで見られた傾向です。アメリカは、リーマンショック後に失業率が大幅に上がったものの名目賃金は上昇を続けています。日本だけに見られる名目賃金の低下は、法律によって正社員の解雇が難しいという制度的な理由と、皆で痛みを分かち合おうという日本的な和の考え方の双方によるものでしょうが、結果として日本では賃金の下方硬直性は見られませんでした。そのことが日本にデフレを根付かせてしまった一つの要因であるという議論には、かなり説得力があると私は考えています。

 

これからの日本経済は明確なインフレ目標を持ちながら運営されることになります。金融政策だけでそれが可能かどうかは議論があるところですが、先のクルーグマン教授の議論を踏まえても、賃金を上昇させることがデフレからの脱却にとって重要な役割を果たすと考えるべきでしょう。日銀が金融緩和を約束しても市中のインフレ期待はなかなか高まらないかもしれませんが、賃金上昇が始まればインフレ期待は明らかに上昇すると考えられます。今回の税制改革でも労働分配率を高めるような施策は検討されていますが、さらに強化していくことが必要だと思います。さらに、賃金が企業活動における労働生産性への対価であることを考えると、労働者の生み出すものの価値を高めていくことも考えないといけません。

 

自民党という政党は保守政党ではありますが、必ずしも小さな政府、自由主義を目指しているわけではありません。高度成長期を主導してきた政党ですから、国家主導の経済発展の発想から抜け出ることができず、今回も企業に賃金上げのお願いをするという父権的政治指導を行っています。話が出ては消えていく「○×ファンド」のようなものも、その顕れです。政府が行うべきは国家主導の経済再生プランを考えることではなく、資源配分の最適化、つまり社会的な適材適所の推進を阻害しているような要因を見つけ、一つ一つ対処していくことです。それが労働生産性の向上に繋がることになります。

 

競争力の強化は必須ですが、それだけだと現在の生産物をより安く作るという動きにつながり、さらにデフレを進める可能性があります。大切なことは、需要が弱い産業に配分されている人的、物的資本を需要の強い産業へと再配分するプロセスを、スムーズに機能させることです。利益を追求する市場経済は放っておけばこれを自然に行います。しかし無節操に行われると被雇用者にとっての不利益が大きすぎるため、規制がかけられコントロールされています。ですが、このプロセスを経ずして労働生産性の向上、さらには賃金上昇を達成することは困難です。したがって、政策の目標は如何にして現状の資源配分を維持するかではなく、如何にして新しい資源配分へと転換する時のプロセスを容易かつスムーズにし、痛みを緩和するかにあるべきです。

 

TPPはその意味で、非常に重要な課題です。TPPがわが国経済に大きな影響を及ぼすことは当然であり、産業ごとにその影響がプラスであったりマイナスであったりするのが当たり前です。逆に、そのようなプラス、マイナスの影響が無いならばTPP参加に大きな意味はありません。政治家は特定の集団の利益、不利益ではなく、日本経済全体の発展を念頭にTPP参加、不参加を議論すべきであり、私にとってその結論は明白です。TPPに関する政治家のこれからの仕事は、国際競争にさらされる産業それぞれへの保護を検討するのではなく、競争力を失った産業から競争力のある産業へ、衰退する産業から他の産業への資源再配分がスムーズに行われるような準備をしていくことだと考えています。大きな政府ではなく小さな政府、そして既得権益を守るのではなく国民全体としての価値創造能力を高めることを目標に、政策提案を行っていきたいと思います。

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